蒼き宙(そら)にて  









           ネオ・アース。


           地球に良く似た  青い空。 透ける水。   美しい星。














 だが、この星の美しさは、どこか超然とした、人工的な雰囲気を纏った美しさだった。大地は肥え、緑豊かではあったが、それらはすべて計算され尽くして配置されたものだった。星全体が軍事基地といえるこの星は、癒しのための自然さえもが人の手による造形の美で、いっそ、星そのものさえ人工的に作られたといたほうが納得できるほどだ。
 竜馬たちゲッターチームが初めてこの星に降り立った夜、隼人はこの星の異常性・・・・・星全体に数えられる程の種類の生物しか存在していないようだと指摘した。後になって、確かにこの星には、人間の他は食用となる数種の動植物しかいないと聞いた。だが、なんで隼人が着いた早々、そんなことを知ったのかと疑問に思って聞くと、着陸する前にこの星の生命体のDNAパターンの解析を見たからな、とこともなげに言う。そんな装置、あったっけ?そういや、俺と弁慶が武蔵に会って興奮してくっちゃべっていたとき、なにやらコンソールパネルをごちゃごちゃ弄っていたような・・・「・初めて見る機械でも、使い方なんてわかったのか」、と聞くと、お前だって、ゲッターならどんなものでも動かせるだろうが、と返された。そりゃそうだが・・・
 

 

 この星の総司令マードックによると、この星には最初から何もなかった、いなかったらしい。まるで区画整備を終えた更地のように、見渡す限り何も無い大地。
 肥沃な大地と、豊かな鉱物資源に満ちたこの星に、生物の姿は何処にもない。マードック達は着陸してすぐに基地の建設に取り掛かった。母星から次々と送り出される人材と資材を惜しげもなく使い、伝えられてきたゲッターチームを迎えるために。
 伝説が現実となる瞬間に居合わせることのできる幸運、誰もが胸を躍らせて待ち続けた。
 
 それを聞いたとき、竜馬達は複雑な気持ちになった。
 マードック達の母星、そしてそれを含む太陽系には戦いはないそうだ。敵はいない。
 羨ましいほど平和な星であるのに、何故、戦いを求めるのか。彼らの住む星には充分な資源があり、他の星に行く必要もないというのに。誰を殺す必要もなければ、誰かに殺されることもないというのに。
 生きるか殺すかの戦いを強いられるゲッターチームを、何故待っていたのだろう。盲目的なまでの憧れと忠誠を持って。
 敵がいない星に住んでいながら、何故戦おうとするのか。いや、それよりもお前ら、戦争がどんな悲惨なものか知っているのか!?思わず強い口調で問い詰めたリョウに、マードックは平然と答えた。
 「確かに私達の星は敵に襲われてはいません。ですが、それは多分私たちの星が、貴方がたを迎えるための準備、「ネオ・アース」を軍事衛星に作り上げるための科学力を得るために、敵の目から隠されてきたのではないでしょうか。ここは銀河系の中心から遠く離れています。それだけではなく「何か」が、ここが敵に気づかれないよう意図したのだと思います。私たちが恒星間航法を得たのはわずか80年前ですが、それまででも、この宇宙では他の星系の同胞たちが命を賭けて戦っていたのは知っていました。連絡方法があったというのではありません。それでも、知っていたのです。同胞たちが、ゲッターチームを待っていると。」

 その眼には、一点の曇りも無かった。


 
 その夜。
 宿舎として与えられた上級幹部棟の一室で。
 竜馬達は言葉少なに酒を酌み交わしていた。地球のブランディーに似た芳香を持つまろやかな酒。
 「なぁんかなー・・・・・」
 ポツリと弁慶。
 「思ってたより、ずいぶん・・・・・・重いな・・・」
 武蔵も竜馬も黙っている。
 戦うことは覚悟していた。
 地球でインベーダーと戦って、ようやく倒せたと思ったとき垣間見た、光に縁取られた「暗黒の空間」。
 行かなければならない、と思った。
 すべての決着はあそこなのだと、考えるまでもなく信じた。意味など無い。
 だからこの空間で、敵のボスを倒せばいいのだと、単純に考えていた。それが。
 戦いよりもまず、とてつもない大きな因縁の渦に放り込まれたように思う。「何としてでも俺たちがやる!」という自信が揺らいでくる。
 竜馬と武蔵は「時間」を飛び越えていたし、隼人と弁慶は若返った。だが、残りの寿命程度で本当に決着がつくのだろうか。地球にいたときですら、せいぜい月までしか行けなかった自分たち。それがここでのスケールは、太陽系どころか銀河系、ひょっとするとそれ以上だ。ゲッターがそこまで強大になると?それが、俺たちに扱えると?
 しかも、自分たちは指揮する立場にあるらしい。自分たちだけでなら、どんな相手にでも突っ込んでいく自信はある。だが、ここでは自分たち以上に兵士たちを戦わせなければならない。もちろん、竜馬たちも地球では自衛隊の教官として隊員たちを指揮したし、他の国の軍人とも共闘したこともある。兵を動かすのが下手だと言うことはない。だがはっきりいえば、自分たちは戦士としてその才能を充分に発揮する。マードックは同胞たちがいると言った。この広すぎる宇宙。局地的な勝利は勝利ではない。同時に行なわれるいくつもの戦闘。助けられるとは限らない。自分達が指導者であればなお、無茶な戦い方は出来ない。おそらく自分たちを盲目的に信じている兵士達を、見捨てざるを得ないことも多々あるだろう。ゲッターロボが何処まで強くなっていくのかは知らないが、敵だって強大だ。
 
 カラリ、カラリとグラスの氷が揺れる。
 上品な香の酒は、気分を高揚させるには力不足で。
 不安定なやるせない感情を持て余す。
 「前に隼人が、『俺は守りたいものを守るために、失いたくないものを失ってきた気がする。』って言ったけど、こういうことなのかな。」
 リョウがつぶやく。 (・・・・隼人はその後に「もしも『時』が戻っても、俺は同じ命令を下す」って言ったが・・・・・・)
 隼人は今、この部屋にはいない。
 ネオ・アースが銀河の片隅にあると聞いた隼人は、すぐさまこの世界の宇宙図を知るためにマードックと中央司令部に閉じ籠もったままだ。別にリョウ達は追い出されたわけではないが、数字と映像の入り組んだ画面を見せられても、即、理解というのは無理だ。必要なことだけあとで説明してくれるだろう。
 隼人が切り替えの早いのは重々承知だが、それでもこの未知の世界でさっさと戦闘の指揮を取るべく行動する隼人に、リョウも弁慶も少しばかり不満と不安を感じている。つい数日前、宇宙艇の中で、どうしても知りたかった隼人の失踪の理由-------ミチルの死後の早乙女博士殺害とその後------について真実を聞かされ、長い間胸に圧しかかっていたわだかまりが、ようやく解けたばかりだというのに。
 やっと以前の4人に戻れたのに。この世界に、この宇宙に、今度こそ、たった4人だけなのだ。 早乙女博士も誰もいない。
 せめてもう少し、感傷というものがあってもいいんじゃないか?いくら自分達が戦うためにこっちに来たといっても、なにもすぐさま仕事を始めなくたって。
 「結局あいつは、なんだかんだといってもいつも、一人ですべてを決めようとする。そりゃ俺たちの頭じゃ、あいつの考えには追いつけねえんだがよ!」
 竜馬が吐き捨てるように言う。だが、その言葉に含まれているのは、怒りや嫌悪の情ではなく、不安。まさかまた、何も知らず何かを失ってしまうのではという虞(おそれ)と苛立ち。何もいつも顔を突き合わせていることが、仲間の繋がりを強くさせる、とは言わないが。近くにいてさえわからないものが、離れていては、もっと解らなくなってしまうだろう。
 弁慶は、あの日元気を連れてシェルターに避難し、13年間生きてきた。 シェルターに入る寸前に聴こえた隼人の声。まさか?!と思った。3年間、生死すらわからなった隼人。だが、問いただす時間はなかった。
 それからは、がむしゃらに生きてきた。竜馬も隼人も武蔵も死んだとは思いたくなかったが、生きているとも考えられなかった。確認することは、絶望することに近かった。だからその後、元気を守ることだけを生きる理由にして。地球は汚染され人々は地下に潜り、インベーダーは地上を闊歩する。人類は少ない物資を取り合いながら、分け合いながら、生きることだけに専念する。その中では思い出は、支えとなるべく、綺麗なままだ。
 だが竜馬は。
 ここに着く前に隼人から説明を受けたとはいえ、竜馬の時間はあの日からやっと動き始めたばかりだ。
 陽も射さぬA級刑務所の独房で、ただ一人。いつ出られるかわからない絶望の日々。ようやく出られたと思ったら、何故か月に跳ばされていた。ただ一人。
 目の前には地球。ありえない現実。
 戻ればみんなに会えるのだろうか。みんな、あそこに居るのだろうか。インベーダーや真ドラゴンやら重陽子爆弾やら、死んだはずの早乙女博士やら、わけのわからんものがゴチャゴチャしてたが、みんな、生きているだろうか。地球は死の星になっていないか?いや、それよりも。俺はもう死んでいて、意識だけが月に来ているのか?地球が見たくて。
 恐怖。
 独房どころではない、今度こそ永遠の孤独。
 発狂しかけた竜馬をかろうじて引き留めたのは、かすかな機械音の唸りだった。
 竜馬は建物の中に居た。放置された基地のひとつだろうか。強化ガラスの向こうは真空の宇宙。自分は空気を必要としている。手に触れるものに実体もある。生きている。
 ならば、地球に戻る。何としてでも戻る。地球に戻って、今度こそ隼人を問い詰めてやる。
  ブラックゲッターを作りながら、竜馬はずっと呟き続けた。呪文のように-----------
         祈りのように。



 武蔵は黙り込んだ竜馬と弁慶を見ていた。その暗い表情を。
 武蔵の記憶は、ゲッター3に乗り込んでインベーダーと戦い、その触手に貫かれた時までだ。死んだかと思ったが、今はどこにも傷跡は無い。生き返ったのか、それともあの一瞬だけ時間が戻ったのか、どちらなのかはわからない。この世界に来たときも、もう一ヶ月もすれば皆に会えると言われたから、さほど不安は感じなかった。地球のことについても、皆がこちらに来るのなら、向こうはなんとかなるのだろうと思うことにした。どう焦ってもなんともならないし、待ち時間がひと月ならば長くない。自分でものんきだと思うが、皆がここに来るってことは、みんな死にはしないってことだから、安心があった。そこが竜馬や弁慶と違うところだろう。
 弁慶は見た目は変っていないが、13年と言う歳月を過ごしてきたのだという。そのせいか、以前よりもずっと落ち着いた男になった。地球が汚染された原因となった早乙女研究所の一員として、人々から非難や嫌がらせを受けながら、元気を守り育てた。その穏やかで奥深い寛容さは、自分たちの中で一番だろう。だが、許容できるのと、納得しているのとは違う。リョウはど顕著ではないが、隼人に対し、隠せぬ不安と不満はあるのだろう。この世界に対する不安もある。もちろん武蔵だって、マードックの話に度肝を抜かれた。想像もつかない大きな戦いに、自分たちは巻き込まれている。
 だが、2人が何より気にしているのは隼人のことだ。隼人がここにいないことに苛立っている。
 武蔵から見れば、隼人は以前と何も変っていない。いつだって仕事中毒の奴だ。どんな世界に来てもマイペースなのは流石だ。だから多分、変ってしまったのは二人のほうだ。おそらくそれは二人が経てきた辛い時間のせいだろう。辛い時間を過ぎてきたぶん、かつての幸せだった日々、早乙女研究所でのかけがえのない日々に縛り付けられる。二人にとって隼人は、失ってしまった日々の、具現化した形なのかもしれない。所員も含め全員が笑っていたあの日々。二度と帰らない、戻せない日々。
 それなのに、隼人がなんの感慨もなく、さっさとこちらの世界に順応しているのが、リョウたちにとっては受け入れがたいのだろう。自分達が何よりも大切にし、支えとしている日々を、あっさり切り捨てて新たな生活に目を向けているように見える。こっちのほうが大事なようで。地球での生活が、自分達が共に築きあげてきたものが、否定されているように思えるのだろう。
 隼人も向こうで辛い思いをしてきたはずだが、あいつはそれが表に出ない。あいつの場合、出さない、じゃないんだ。上手くいえないが・・・・・「浄化」・・・・・か?・・・・・
 とにかく、隼人には何があっても揺ぎない、あいつなりの「理由」がある。それをこの二人は知らない。




 「月面戦争で」
 唐突に武蔵が話し出した。
 「ん?」
 訝しげなリョウと弁慶。
 「俺たちがゲッターロボで参戦する前に、隼人がひと足先に月に行ってただろ?」
 「ああ。確か、月のコーウェン博士から、何か月面基地でおかしなことが起きているって連絡が入って。」
 「早乙女博士は手が離せないからって、隼人が行ったんだよな。」
 リョウと弁慶が交互に答える。
 「んで、暫らくしてから月面基地がインベーダーが現れて、次々と襲ってくるといって、俺たちゲッターチームが出動したんだ。」 
 「インベーダーはゲッター線を食って生きているが、許容量以上のゲッター線を吸収させれば飽和、爆発して消滅する。雑魚はなんとかなったが、親となったデカイやつは、俺たちゲッターロボの3体合体エネルギーでやっと倒せたんだよな。」
 「俺のゲッター1、武蔵のゲッター3、ゲッター2は隼人の代わりに弁慶が操縦したよな。それがなにか?」
 怪訝そうなリョウ。武蔵は今更、何を言いたいのだろう。
 「あのときよ。コーウェン博士は『おかしなこと』って言ったけど、本当はそんな甘いもんじゃなかった。基地は崩壊寸前だった。」
 「なんだって?」
 「聞いてないぞ。武蔵、おまえ、なんだってそんなこと知ってるんだ?」
 リョウも弁慶も初めて聞く話だ。
 「前に一度、早乙女研究所にキング博士が来たんだ。その護衛に海兵隊いたウィルソンが付いてた。」
 「あ・ああ、あいつか。」
 リョウも弁慶も面識はある。共にアメリカでサバイバル訓練という名のピクニックに行った仲間だ。(いや、ピクニック気分はリョウだけだろ。)
 「ちょうどそのとき、リョウも弁慶も自衛隊の教官として北海道のネーサー基地にいたからな。キング博士と早乙女博士が仕事している間、俺とウィルソンは部屋で一杯やってたんだ。」
 護衛といっても、研究所内で博士たちを害する者は居ない。ウィルソンはリョウの不在を随分残念がっていたが、だいぶ酔いが回ってきたのだろう。ふと、口にした。
 「そういや、ジンは? いないのか?」
 「ああ。隼人はドイツの会議とやらに行っている。あ、パリだったかな、ロンドンだっけ?何箇所か回るって言ってたかな。隼人を見ていると、俺はつくづく凡人で良かったと思うぜ。天才は損だ。」
 笑いながら武蔵が言うと、
 「ジンと付き合えるなんて、お前もリョウも弁慶も、凄いな。俺は恐ろしいよ。」
 ぼそり、とつぶやくウィルソン。
 「なんだよ。」
 武蔵も、軽口に聞こえないセリフに眉が寄る。
 「あ、いや、悪く言ってるんじゃ、ないんだぜ・・・・・」
 慌てて言うが、その歯切れの悪さと、目の奥に潜む怯えと微かな嫌悪に武蔵は苛立った。
 「なんだよ!言いかけて止めるなんて男らしくないぞ。」
 険しい顔になった武蔵に、ウィルソンはしまった、という顔になりながらも。
 「月面基地に派遣されてた一部の隊員の間じゃ、ジンは『魔物』って言われてるんだ。」
 「なんだって!!」
 
 思わず声を荒げた武蔵に、ウィルソンは大慌てて弁明する。
 「あ、いや、ほら、アラブとかどこかじゃ、魔物のことをジンっていうだろ。言葉が似ているせいもあるんだ、その、俺たちはジョークも好きだし・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 無言で睨みつける武蔵。観念したようにウィルソンは話し出した。
 「月面基地では、最初、インベーダーは基地内に現れたんだ。」
 「ええ?」 
 武蔵は聞き返した。自分達がインベーダーを倒しに行った時、インベーダーはすでにいくつかの基地を壊滅させ、第4基地に襲い掛かっていた。アレは基地の外で繁殖するのではなかったか?
 「極秘扱いにされているっていうより、誰もが思い出したくなくて口を閉ざしているんだけどよ。」
 ウィルソンはコップに注がれたウィスキーを生のままぐっと空け、
 「インベーダーは、隊員たちに取り憑いたんだ。」


  頭からコールタールを浴びたような姿で、ゆっくりと歩いてくる隊員。黒々とした中にギラリと光る目。ゆらりゆらりとゆれながら、銃を構え乱射する。
 「止まれ!止まれ!」
 「撃つぞ!止まれ、頼む!!」
 悲鳴のように制止する隊員たち。ついさっきまで朗らかに笑っていた仲間が、虚ろな目で基地を破壊する。
 目を瞑って銃を撃つ隊員。
 ドゴォ!ドゴォ!!
 大口径銃で撃たれても、インベーダーに取り憑かれた隊員は倒れない。ゾンビのように歩き続け、仲間だった隊員たちに銃を向ける。
   阿鼻叫喚の  地獄。

 「インベーダーはもともとアメーバみたいなもので、それが人に取り憑いたり、機械に取り憑いたりして形を持つらしい。最初に襲われた第10基地は全員死亡した。緊急映像だけが司令基地のコーウェン博士たちのもとに届いたらしい。すぐに切れたと言うが。」
 隣接する第9基地に調査隊を派遣すると共に、コーウェン博士は地球に、早乙女研究所に救援要請を送った。

 「早乙女博士はもとはコーウェン博士やスティンガー博士と一緒に、月面基地計画の責任者だったんだって?」
 「ああ・・・・・・月での開発中にゲッター線が発見されて、早乙女博士は研究のために地球に戻ったと聞いている。」
 答えながら武蔵は思い出す。急に研究所がバタバタして、何かあったのかと思っていたら、宇宙から降り注ぐゲッター線の量が増えているって。いいことなんじゃねえの、とリョウ達と話しているうちに、月から要請があって、隼人が出発したという。なんで一人で行っちまうんだよ、皆でゲッターで行けばいいじゃんか。そのほうがずっと早いんだし。と、文句言ってた頃だ。早乙女博士は、ゲッターロボの改造が必要かもしれないので待機していてくれと言った。ただそのときは改造ったって、武器をちょこっとつける程度かと思った。敷島博士が入り浸ってたんで、「おいおい、ゲッターよりデカイ武器はつけてくれるなよ。」なんてふざけて。だから2週間ほどして改造が終わった、出動だと言われ吃驚した。予備の機体と試作品の機体を使って、なんと3体ものゲッターロボが待っていた。3機合体じゃなく、3体合体だと?どんな敵なんだと月に飛んで見たものは、月の半分を埋め尽くすかというほどの、蛹みたいなインベーダーの群れだった。


 「おまえやリョウ達が見たのは、機械に取り憑いたインベーダーが変化したものだ。先にジンが来たときは、まだ機械ではなく人に憑いていた。ジンはコーウェン博士たちとずっと対策を検討してたらしいが、出された結論はひとつ、処分だ。」
 苦しげにウィルソンが告げる。
 普通の弾丸や光線銃ではインベーダーは死なない。分裂して、また元に戻るだけだ。下手に手を出すと、あらたに犠牲を出すことになる。インベーダーがゲッター線をエネルギーとして増殖していることを突き止めたコーウェン博士たちは、ゲッタービーム銃と、ゲッターエネルギーを詰め込んだ弾を装てんできるマグナム銃を作った。
 「だが、インベーダーを倒すにはインベーダーの許容量を超えたゲッター線エネルギーを吸収させなければならない。ビーム銃のほうは反動が強すぎて、並みの隊員じゃ扱いが危険なので、マグナムの方を使ったらしいが、なにしろ1発や2発じゃ死なない。眼を狙うのが一番効果的だとわかったが、眼といったら、顔の部分を覆っている部位にあった。つまり、仲間の顔を狙って撃つわけだ。しかもエネルギーが飽和するまで撃ち続けなきゃならない。飽和イコール破裂だ。インベーダーだけではなく、取り付かれた人体、血や肉や、内臓や眼球・・・・・・・仲間だったんだ。友達、あるいは恋人でさえ。」
 武蔵も途中から全身が凍りついたようになった。想像ですら身震いする内容。実際に対処していた隊員たちの苦悩はどれほどのものだったか。
 発狂する一歩手前の極限状態。
 「それで、ジンがやったんだ。」
 ?え?なにを。
  隼人が何をやったって?
 「ジンが、ほとんど一人で、インベーダーに取り憑かれた隊員を殺・・・・・・処分したんだ。」
 
 隼人は。
 両手にビーム銃。あるいはマグナムを持ち。
 2体、3体同時に処分していった。憤怒の形相で掴みかかってくるおどろおどろしいインベーダー。あるいは苦痛にのた打ち回り、人間の顔を交互の出現させて哀願したり、かなわず恨めしげに呪いの言葉を吐くインベーダー。次から次へと湧いて出てくるように襲ってくる元隊員たちを、隼人はその白皙に一片の感情を浮かべることなく的確に、迅速に処理していった。膨張し、破裂する寸前の断末魔の叫び。散らばる肉片。充満する血臭。隊員たちは皆、生きながらにして地獄を見ていた。その中で。
 全身を真っ赤に染めて佇む長身。
 「魔物だ。」と。
 恐怖のあまり、正気を失った隊員が口走った。
 「あれは魔物だ、人じゃない!!」

 インベーダーに取り付かれた隊員を一掃し。シャワーを浴びて着替えた隼人は、先ほどまでの殺戮がなかったかのように静謐で。彫刻のように整った白い顔は、侵し難い気品さえ備えていた。
 「ジン君。コーウェン君から連絡だよ。」
 スティンガー博士が走り寄ってきた。
 「第7基地からの連絡が途絶えた。あそこは細菌研究のラボだ。人は少ない。多分、もう全滅しているだろう。インベーダーを基地もろとも爆破させたいが、ゲッタービーム砲は使えるかと。」
 「やめてくれ!!」
 遠巻きしていた隊員の中から一人が叫ぶ。
 「あそこには俺の親友が居るんだ。あそこは細菌研究のため、気密性は高い。まだ、インベーダーになっていないかもしれない。隔離された部屋で助けを待っているかもしれない。爆破は待ってくれ!」
 縋るように隼人に言う。
 「ふ〜ん、君が助けに行くと言うのかい?」スティンガー博士が隊員につぶやく。
 「!ああ、もちろんだ、俺が行く。俺がアイツを助ける!」
 「覚悟はあるのか。」
 静かな声が発せられる。その声に思わず背筋が伸びる。
 「は、はいっ!自分の命など、惜しくはありません!」
 「違う。」 
 隼人は言った。
 「インベーダーとなった友を、殺せる覚悟はあるか。」
 漆黒の双眸。光を喰らう。

           魔物 だと。

    誰もが言った。  




 「そんな馬鹿なことがあるか!!」

 テーブルを壊さんばかりに竜馬が拳を叩きつける。
 「なんでだよ。なんで隼人がそんなこと、言われなきゃなんねえんだ!」
 ぶるぶると、握られたままの拳が震えている。弁慶も怒りに口がわなないている。
 「あいつら〜〜、ぶっとばしてやる!!」
 思わず立ち上がった竜馬を、武蔵は慌てて押し留める。
 「ま、待てよ、リョウ。ここからじゃ、何も出来ないって!」    (確かに)
 それでも立ち上がったままのリョウに、
 「いやさ、だから、俺も後で隼人に言ったんだ。なんで俺たちをさっさと月に呼ばなかったんだって。ゲッターロボを改造するのに、少なくとも2週間はかかってたはずだ。その間、俺たちは何も仕事が無かったんだから、俺たちを月に呼べばよかったんだ。お前一人が悪者になる必要がどこにあるってんだってよ。」




 ヨーロッパの会議から帰ってきた隼人を、武蔵は部屋に押しかけて行って問い詰めた。
 詰め寄られた隼人は、『何のこと言ってるんだ?』 と怪訝そうにしていたが、ややあって、「ああ。」と思い出したようだ。
 「隊員たちはインベーダーに取り憑かれたといっても、別に戦闘能力や身体能力が上がったわけじゃない。なかなか死なないというだけだ。束になって掛かってこられても俺にすれば木偶人形だ。ひとりで片付けられる。」
 「そういう問題じゃ、ねぇだろう!!」
 無造作に、しかも見当はずれの答えに、武蔵は切れかかる。
 「魔物だって、人じゃねえって言われて、おまえ、嬉しいのかよ!?」
 「別に嬉しくはないが、気にもならんな。」
 真顔で答えられ、脱力した武蔵は、隼人のベッドに腰掛けて頭を抱える。
 「・・・・・・・・・・・おれは・・・・・・・いやだ・・・」    ぼそり。
 「ん?」
 「おれは、お前がそんなふうに思われるのは、我慢できない。」
 真摯な眼で見つめる武蔵に、隼人は少し考えるように首を傾げ、武蔵の前に椅子を引いてきた。
 「先週キング博士がこちらに来ていたから・・・・・・・多分、お前はウィルソンから聞いたんだろう。」
 うなづく武蔵。
 「あいつは月にいなかったから、仲間からの又聞きなんだろな。多少、大げさに伝わっているだろうが、ホントのところはもっと非道なんだ。」
 「ああ、そうだろな、噂ってそんなもんだ・・・・って、え?」
 もっと、非道?
 「俺が月に行った時点で、すでにインベーダーに取り付かれた隊員が数十人、秘密裡に隔離されていた。コーウェン博士とスティンガー博士は、なんとか人体からインベーダーを引き剥がそうとしていたが、インベーダーはヒトの細胞に沁み込むように同化していた。一度そうなったら救う手立ては無い。早乙女博士が都合悪くて俺が代わりに行ったんじゃない。最初から、殺し方を考えるために俺が呼ばれたんだ。」
 隼人はじっと武蔵を見詰めた。
 「人体実験だ。ゲッター線が決め手になると解るまで、ずっとな。」
 ・・・・・・・・・ドクン・・・・・ドクン・・・・・・・心臓の音がうるさい・・・・・・
 「実験内容がどんなであったか、おまえ達が知る必要は無い。インベーダーは人に取り憑いたものの、簡単に倒されたせいか、不便だと思ったんだろう。次は機械に取り憑いた。だから俺は、お前たちが必要だと月に呼んだ。何か、おかしいか?」
 ・・・・・・・・・・・おかしいのではなく、辛いのだと。
 不思議そうな顔をしているこの IQ300のトーヘンボクに、どうやって教えればいいのだろう。なんか、俺たちに理論を説明するときの隼人の頭痛が解るような気がする・・・・・・・・・武蔵は頭を抱えてしまう。
 そんな武蔵の葛藤に気づくはずも無い隼人は言う。
 「俺は他人の言うことは気にならない。俺を魔物だの悪魔だの言う奴がいるのは知っているが、別に俺は『悪』と呼ばれるとも平気だ。よく『善』と『悪』とは比較されるが、字を見ても、『善』にあるのは『口』だけだ。『悪』には『心』、行動する力がある。口だけの『善』になりたいとは思わんさ。」
      無造作に言い切るその強さには。
      どんな『支え』があるのだろう。
 「咽が渇いたな。なんか、飲むか?」
 部屋に備え付けの小さな冷蔵庫を開けながら尋ねる隼人。
 黙ったままの武蔵に、ふうっと溜め息をつくと、ミネラルウォーターのペットボトルを2本取り出し、1本を武蔵に投げる。
 「・・・・・・・・・どう言えばいいのかな。俺の世界はひどく、狭いんだ。」
 「 ? 」
 隼人の世界が狭い?どういうことだ?隼人は俺たちと同じゲッターパイロットとしてではなく、世界中の学界や政界、財界にも名を馳せている。・・・・・・・暗黒街にも。
 「ゲッター線研究は面白いし、宇宙開発にも興味がある。だが、もしそれらを断念させられることになっても、別に構わない。ただし、それがお前やリョウたち、早乙女博士やミチルさん達の不利になることならば、俺はどんな手を使ってでも阻止する。それこそ大量虐殺になろうとな。さっきも言ったように、俺には物事の善悪の観念はよくわからん。立場が違えば観念は変るから。だからおまえ達-------お前やリョウ、弁慶、博士、ミチルさん達-----俺が共に居たい人間の願うことをやる。俺に在るかどうかは知らないが、あるとすれば、お前たちが俺の『良心』だ。」
 深い静かな森の湖の、水面をすべる風のように隼人が笑った。
 『ああ、コイツの本性はこれなんだ。』と、武蔵は胸が詰まる。思わず零しそうになった涙をぐっとこらえて。
 「おい、隼人!酒だ、酒!こんな水なんか、飲んでいられるか! お前の部屋にだって、ウィスキーぐらいあるだろ?アルコール寄越せ、アルコール!!」
 わざと荒っぽく喚く武蔵に
 隼人はニヤリと笑って言った。

    「お前の嫌いな 『魔物(ジン)』 ならあるがな。」








 
 リョウも弁慶も黙ってグラスを見詰めていた。
 氷がすっかり解けてしまったそれを、飲み干すことも忘れたように。

 「隼人は俺たちと違って何でも出来る。天才だ。仲間だといっても、いつも一線を画した高いところにいる気がしてた。仕方ないことだと思ったし、嫉妬するのも嫌だったから、アイツは特別なんだと割り切ろうとした。だけどよ・・・・・」
 震える声を抑えながら、
 「一線を画していたのは俺の方だったんだ。隼人にとっては俺たちと一緒にいることはデフォルトで、、実際の距離や時間なんか関係ないんだ。だから俺たちが隼人の不在を、不満というか寂しいと思っていることが、理解できないと言うか・・・・気がつかないというか・・・・アイツの辞書にはないというか・・・・・・う・・・ううん・・・」
 「・・・・・・・まぁ、言いたいことはわかるぜ、武蔵。なぁ、弁慶。」
 「おぅ。」
 リョウも弁慶も頷く。
 結局、隼人って奴は、複雑そうに見えて単純なんだ。シンプルな上に頭の回転が速くて、結論が早くて、切り替えが早くて対応が早くて。問題が出た途端、答えが出てしまっているからさっさと次に進む。その行程が見えなくて、俺たちは置いていかれたような気になっていたのだが。
 「隼人が言ってた。『自分ひとりでやれることしか、ひとりでやっていない。お前たちの力が要るときは、ちゃんと頼んでるだろ、いつも。』ってさ。」
 「どれのことだ?」と弁慶。
 「頼まれたというより、頼りにされた覚えもねぇけど。」と、竜馬。
 「だからよ。意識するまえに、当然なんだよ、隼人にとっちゃあ、俺たちはな。」
 武蔵の言葉に、二人とも照れくさそうに笑う。
 「だけど武蔵。そういうことはもっと早く教えてくれよ!」
 「そうだぞ、おまえひとりがニンマリと納得していたなんて、ずるいぞ!」
 二人の責める言葉に。
 「言えるかよ、あの時点で。説明しようと思ったら、月での非道も話さなきゃならねぇ。あの時点じゃあ、お前たちの傷の方が大きいぞ。」
 「「・・・・・・・・・・・」」
 二人は黙って、ぬるくなった酒を飲み干した。
 「ま、とにかく。」
 武蔵が二人のグラスに新たな酒を注ぎ、自分のグラスにもなみなみとそそぐ。
 「この世界が決戦の地だ。せいぜい隼人をこき使ってやろう。そのほうがアイツは嬉しいらしい。」
 ニヤリと笑う。
 「おぅ、そうだな。マゾだとは知らず、悪いことしたな。」 と弁慶。 
 「んじゃー。」
 リョウが高々とグラスを上げる。

   「誤解も解け、新たな事実っていうか、趣味も知ったところで 乾杯!!」








 司令室で。
 取り寄せたデータの山に埋もれながら、隼人は先程見せられた宇宙図を思い起こしていた。
 恒星間航法を手に入れた世界。この広い宇宙には、それぞれの「種」が生存可能な星がいくつもあるというのに。そして、そこに行く手段もあるというのに。
 決して相容れない何かが、この宇宙を支配している。ここで俺たちは何をするのか。何を求められているのか。
 まあ、理由が欲しいわけではないが。
 少し気になることは。
 ここに来て、俺と弁慶が若返ったことだ。武蔵も瀕死の重傷を負ったらしいが、その傷跡はどこにもない。時間を延ばされたのなら、それもいい。だが、もし、時間を止められたのだとしたら。
 それほどの戦いなのか?
 この空間に入る前に見た幻影。
 自分たちのほかにもゲッター戦士はいるのか?影のようにしか見えなかったが。
 まぁ、いい。今、この時点で悩んでも何にもならない。これから先、どんな日々が待っているとしても。
 俺たちは4人、ここにいる。
 あいつらが、俺の「セーフティ・ネット」ってやつだ。




           ぐでんぐでんに酔っ払った「セーフティ・ネット」が。
           司令官室に雪崩れ込んで来るまで。
  
                    あと5秒。




     --------------*-----------*------------*--------------



 蒼月様 15000番 リクエスト

   お題は    「OVA真ゲ(原作設定込み)」
           「隼人と竜馬と弁慶(武蔵でも可)、旧ゲッターチームらしい絆が胸に沁みる話」


 う、うれしいです!ええ、もちろん、武蔵も弁慶も出しますわ!当サイトOVA真ゲは、4人とも元気です!!
 というわけで。
 書こう、書こうと思いつつ、放置されていた「蒼き宙にて」 始動です。ありがとうございます、蒼月様。
 怠惰な管理人が、人様のご好意によって生息しているサイトです。これからも、よろしく、お付き合いくださいませ。
    (・・・・・「胸に沁みる」は・・・・・クリア出来たかは、汗・汗・汗・・・・ですが。)
 なお、このお話のオマケを、下記に付けておきます。
            (2007.11.11     かるら )


    追記
     『悪には心がある。善には口しかない。文字を書いてみればわかる。
      善は心を必要としないらしい。心がなくとも善は善である。』
                           峰 隆一郎 著 「土方歳三 B」より。




 

「蒼き宙にて 1 」の オマケ






 マードックの言う「同胞」とやらは、わかっているだけでも8惑星あるという。これを多いと見るか、少ないと見るか。範囲とすれば、4個か5個の太陽系分だろうから、自分の観念からいけば多い。ただ、ここは銀河系の外れらしいから、この宇宙を舞台にする戦いとすれば、ほんの小さな戦力だろう。だが、ここに自分達が呼ばれたということは、ここから始めろということだ。でなければ、もっと違う場所に送られたはずだ。とにかくやれることから始めるしかない。マードックは他の星の者たちもゲッターチームを待っていたというから、一度この星に各惑星の指導者たちを集めて状況を知る必要があるな。今までどんなふうに戦ってきたか、連携は取っていたのか。マードックたちはひっそりと建設業に勤しんでいたから、その点は知らないからな。敵の姿も興味あるし、味方だって俺たちのような人型ばかりとも限らない。楽しみだ。
 こちらの兵士の訓練はまだ見ていないが、竜馬達に任せれば安心だ。明日武蔵に案内させて、訓練メニューをつくらせよう。そういえば、あいつらもう寝たかな。こちらの酒は上品で悪酔いしないから、まだ飲んでいるかもな。おれもこれを片付けたら覗いてみるか。と、そのとき。


 
「隼人〜〜〜」

 バタン!!と乱暴にドアが開かれたと思うと、手に酒瓶を握り締め、顔を真っ赤にさせた3人が飛び込んできて。
「おい!」
 と制する間も無く。
 重量級の突進による突風に、机に積まれていた書類が空中に散乱し。
 「おわっと!すまんすまん!」と千鳥足が手を伸ばし。
 書類は掴むが、酒瓶は落下する。
 「わぁ!!」
 さすがゲッターチーム、流竜馬。素晴らしい反射神経とスピードで、床に落ちる寸前に止めたものの、中身は零れるし、踏みつけた書類は破れ・・・・・・・・・・酔っ払いが3人、拾おうとすればするほど・・・・・・・・
 「・・・・・・・おまえ達・・・・・」
 地を這うような 唸り声・・・・・・・


           一秒後  -------------------
       
                  魔王 降臨。
          

            
         (11.14)